犯罪に時効があるのはなぜ?公訴時効の理由と期間、殺人罪に時効がないワケ

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「よし! あと23分で時効成立だ!」
時効 カウントダウン

「犯罪を犯しても、一定期間が過ぎれば罪に問われなくなる」――そんな制度が、なぜ存在するのでしょうか? 実は犯罪の時効には、単なる“逃げ切りルール”ではなく、時間の経過によって証拠が失われたり、処罰の必要性が変化したりすることと深い関係があります。しかも、すべての犯罪に時効があるわけではありません。殺人などの重大犯罪では、時効そのものが廃止されています。知っているようで知らない「犯罪の時効」の意外な仕組みを見てみましょう。

犯罪に「時効」があるのはなぜ?

「犯人が逃げ続けて、時効が成立したら無罪放免」――犯罪の時効について、そんなイメージを持っている人も多いかもしれません。

しかし、法律上の「公訴時効」は、犯人に“逃げ切る権利”を与えるための制度ではありません。

公訴時効とは、犯罪が行われてから一定期間が過ぎると、検察官がその事件について起訴できなくなる制度です。現在の日本では、犯罪の種類や刑の重さによって期間が細かく定められています。

では、なぜこんな制度が必要なのでしょうか?

理由その1「時間がたつほど、正しい裁判が難しくなる」

大きな理由のひとつが、証拠の問題です。

事件から10年、20年、30年……と時間がたてば、現場に残された物証が失われたり、記憶があいまいになったりします。

「10年前に見た人の顔を、正確に覚えていますか?」

そう考えると、時間の経過によって犯罪の事実を正確に認定することが難しくなるのは想像しやすいでしょう。

刑事裁判で重要なのは、「たぶんこの人が犯人だ」ではなく、証拠に基づいて事実を認定することです。

つまり公訴時効には、古い事件をいつまでも裁判の対象にし続けることで、かえって誤判の危険が高まることを避けるという側面があります。

理由その2「いつまでも処罰の可能性を残しておかない」

もうひとつの考え方が、時間の経過による処罰の必要性の変化です。

犯罪が起きた直後と、何十年もたった後では、社会状況も本人の生活も大きく変わります。

もちろん「時間がたてば犯罪が許される」という意味ではありません。

ただ、国家が人を刑事裁判にかけ、刑罰を科すという強い権力を、いつまでも無期限に行使できる状態にしておくことにも問題があります。

そこで、犯罪の種類ごとに一定の期限を設けているのです。

理由その3「捜査される側の不安定な状態を永遠に続けない」

時効制度には、事件の関係者をいつまでも刑事手続の不安定な状態に置かないという意味合いもあります。

もし、どんな軽微な犯罪でも「いつか証拠が見つかれば、何十年後でも起訴される」という制度だったら、人はいつまでも刑事責任を問われる可能性を抱えて生きることになります。

犯罪を適切に処罰することと、国家が刑事責任を追及できる期間を一定に区切ること。

この2つのバランスを取る仕組みが、公訴時効なのです。

犯罪の時効は何年? 実は「罪の重さ」で違う

「時効は何年?」と聞かれても、すべての犯罪が同じ期間ではありません。

刑事訴訟法では、原則として犯罪に科される刑の重さを基準に、公訴時効の期間を定めています。

たとえば、人を死亡させた罪については、死刑に当たるものを除き、無期拘禁刑に当たる罪なら30年、長期20年の拘禁刑に当たる罪なら20年、それ以外は10年です。

一方、人を死亡させた罪以外では、死刑に当たる罪は25年、無期拘禁刑は15年、長期15年以上の拘禁刑は10年、長期15年未満なら7年などとなっています。最も短いのは、拘留・科料に当たる罪の1年です。

つまり、ざっくり言えば、

「重い犯罪ほど、時効までの期間も長い」

という仕組みです。

なお、現在の法律では、2025年に施行された拘禁刑への変更に伴い、以前の「懲役・禁錮」という表現も「拘禁刑」に改められています。

時効のカウントは、いつから始まる?

ここも意外と知られていないポイントです。

公訴時効は原則として、犯罪行為が終わった時から進み始めます。共犯の場合は、すべての共犯について、最終の行為が終わった時から起算します。

ただし、ずっと時計が動き続けるとは限りません。

たとえば犯人が国外にいる場合や、逃げ隠れしているために起訴状の送達などができない場合、その期間は時効の進行が停止します。

つまり、

「海外に逃げれば、その間に時効がどんどん進む」

というわけではありません。

「海外に逃亡して時効まで逃げ切る」という昔ながらのイメージとは、実際の法律はかなり違っているのです。

「時効が成立した=無罪」ではない?

ここも混同されやすいところです。

公訴時効が完成すると、検察官はその事件について起訴できなくなります。

これは、裁判で「この人は犯罪をしていない」と判断されたという意味ではありません。

つまり、

「無罪判決を受けた」のではなく、「公訴時効によって刑事裁判そのものを行なえなくなる」

という違いがあります。

「無罪」と「公訴時効」は、似ているようで法律上はまったく別物なのです。

では、殺人にも時効はある?

ここで大きな例外が登場します。

現在の日本では、殺人罪など「人を死亡させた罪で、死刑に当たるもの」の公訴時効はありません。

これは2010年の刑事訴訟法改正によるものです。

それ以前は、殺人罪にも公訴時効があり、長期間逃げ続ければ処罰できなくなる可能性がありました。

しかし、殺人事件の遺族らから「家族の命を奪った犯人が、一定期間が過ぎただけで処罰されなくなるのは納得できない」という強い声が上がり、制度が見直されました。法改正によって、死刑に当たる人を死亡させた罪は公訴時効の対象から外されています。

そのため現在の日本では、殺人などの重大犯罪について「時効まで逃げれば大丈夫」ということはありません。

実は「時効が長くなった犯罪」もある

さらに現在の制度では、性犯罪についても特別な公訴時効が設けられています。

たとえば一定の性犯罪では15年や12年など、通常の区分より長い期間が設定されています。

さらに、被害者が犯罪当時18歳未満だった場合には、18歳になるまでの期間が加算されます。これは、幼い被害者の場合、被害をすぐに申告することが難しいケースなどを考慮した制度です。

「犯罪の時効は一律○年」という単純な仕組みではなく、犯罪の性質や被害者の年齢などによって細かく設計されているわけです。

刑事の時効がなくなっても、民事責任は別問題

もうひとつ注意したいのが、刑事責任と民事上の損害賠償責任は別物だという点です。

犯罪について公訴時効が完成したとしても、それだけで「被害者が損害賠償を請求する権利まで同時に消える」とは限りません。

民法では、不法行為による損害賠償請求について、原則として「損害および加害者を知った時から3年間」、また不法行為の時から20年間という期間制限が設けられています。さらに生命・身体への侵害については特別なルールがあります。

つまり、「刑事事件の時効」と「民事上の損害賠償請求の時効」は、別々に考える必要があります。

「犯罪の時効」は、犯人を逃がすための制度ではない

「悪いことをしても、逃げ続ければいつか許される」。

公訴時効を単純に考えると、そんな不思議な制度に見えてしまいます。

しかし実際には、

  • 時間がたつほど証拠や記憶が失われる
  • 正確な裁判が難しくなる
  • 国家が刑事責任を追及できる期間を区切る必要がある
  • 一方で、重大犯罪については時効をなくす必要もある

という、さまざまな事情の上に成り立っています。

そして日本の法律は時代とともに変化してきました。

2010年には殺人などの重大犯罪の公訴時効が廃止され、2025年には懲役・禁錮に代わって拘禁刑が導入されるなど、現在の制度も過去とまったく同じではありません。

「なぜ犯罪に時効があるのか?」という素朴な疑問をたどっていくと、そこには犯罪を適切に処罰することと、時間の経過によって生じるさまざまな問題とのバランスという、法律の難しいテーマが隠れているのです。

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