
相撲の勝敗を決める技を「決まり手」といいます。日本相撲協会が公式に認定する決まり手は全部で82手。その歴史をさかのぼれば、江戸時代の「四十八手」にまでたどり着きます。ところが1955年(昭和30年)に制定されて以来、幕内の本場所で一度も決まったことがない「幻の反り技」が4つだけ存在します。その正体は一体何なのか、そしてなぜ土俵から姿を消したのか?今回は雑学として、いつまでも記憶に残る大相撲の奥深いトリビアをお届けします。
相撲の「決まり手」とは?――江戸の四十八手から現代82手への歴史
相撲の勝敗には大きく2つの分け方があります。ひとつは「技を仕掛けた力士が勝ったケース」、もうひとつは「自分から崩れて負けたケース」です。前者のように技を仕掛けた力士が勝った場合の技を「決まり手」と呼びます。
この82手の歴史、じつは江戸時代にまでさかのぼります。
江戸時代、寛文年間の文献には「反(そり)」「捻(ひねり)」「投(なげ)」「掛(かけ)」の4系統に分けられた「相撲四十八手」がすでに登場。当時の相撲は今のような丸い土俵がなく平地で行われていたため、相手を抱え上げて反り気味に投げる「反り技」が花形でした。
その後時代とともにルールが整備され、1955年(昭和30年)5月に日本相撲協会が公式に「68手の決まり手」を制定。1960年1月に70手に増補され、2001年(平成13年)初場所から12の手と3つの非技(勝負結果)が追加されて、現在の「82手」が正式に定められました。
実は4つだけ!幕内で一度も決まったことがない「幻の反り技」
ところが、この82手のうち、1955年の制定以来、幕内の本場所で一度も決まったこと(採用されたこと)がない技が4つだけ残っています。しかもその4技は、すべて同じ「反り手(そりて)」グループに属しています。
4技はすべて「反り手」に属する共通点
日本相撲協会公式の82手一覧では、「反り手」は6種類(居反り/伝え反り/撞木反り/掛け反り/たすき反り/外たすき反り)に分類されています。そのうち、4つが”幻”というわけです。
① たすき反り(たすきぞり)
相手の差し手の肘をつかみ、その腕の下をくぐるようにして腰を落とします。もう片方の手で相手の足を内側から取って、肩に担ぎながら体を反らせて後方に投げる技です。名前の由来は、たすきを肩に回してかけるように相手を持ち上げる姿から。日刊スポーツの報道によれば、制定前の1952年(昭和27年)春場所に常の山が大内山に決めたのが最後の成功例とされています。
② 外たすき反り(そとたすきぞり)
「たすき反り」を足も使ってより強く繰り出す強化版。相手の脇を外側からくぐるところからこの名前がついています。たすき反り以上に高度な足さばきが必要で、現代の力士にはまず見かけない超難度の大技です。
③ 撞木反り(しゅもくぞり)
頭を相手の脇の下に入れ、肩の上に担ぎ上げて後ろへ投げ落とす技。「撞木(しゅもく)」とは、お寺で鐘を突くための長い棒のこと。相手の脇と自分の頭で撞木を支える形になることから名付けられました。※よくある誤字「鐘木反り」は誤りで、正しい表記は「撞木反り」です。
④ 掛け反り(かけぞり)
差し手の脇に頭をねじ込み、外掛けの動きを足で切り返しながら後ろへ倒す技。相手を瞬時に崩す見た目以上に激しい大技で、体格差のある相手にも通用する”裏ワザ”的な存在です。
なぜ現代土俵から消えたのか?――反り技が消えた3つの理由
理由1 立ち合いの変化――反る”間”がない
江戸時代は平地での組手合い(くみてあい)が中心で、相手の体勢が整ってから勝負がついていました。現代は塩を撒く動作から一瞬で立ち合いが終わる「ダッシュ立ち合い」が主流。反り技を仕掛ける”間”そのものが失われています。
理由2 力士の大型化――抱えて肩に乗せられない
現代の大相撲は、身長180cm以上、体重150kgオーバーの力士が珍しくありません。抱え上げて肩に乗せる反り技は、文字どおり”力業”であり、巨体を担ぎ上げるには物理的な限界があります。
理由3 怪我のリスク――首と腰に大きな負担
反り技は自分自身も大きく反るため、頸椎(けいつい)や腰に多大な負担がかかります。プロの大相撲は1年に6場所・約90日もあり、故障のリスクを避けたい近代相撲では、自然と敬遠されるようになりました。
雑学コラム――知られざる反り技トリビア
「反り」だけで12手――江戸時代は反り技こそが花形だった
江戸時代の「四十八手」では、反り技が実に12手も占めていました。当時は丸い土俵がなく、反り技こそがメインの決着技だったのです。
宇良が実現した”十両史上初”――幻リストから消えた日
2023年(令和5年)1月場所、東十両3枚目の宇良(うら)が、関取最重量202kgの天風を「たすき反り」で沈めました。十両以上の本場所で、1955年の制定以来、史上初の快挙です(日刊スポーツ)。十両レベルに限れば「たすき反り」は幻リストから消えた――ただし幕内(全82手のうち最高位)に絞れば、「たすき反り・外たすき反り・撞木反り・掛け反り」の4つが、現代の土俵で成功したことがない幻の技として今なお残り続けています。
「鐘木」は誤字?――正しくは「撞木反り(しゅもくぞり)」
巷で見かける「鐘木反り」は誤字です。日本相撲協会公式の表記は「撞木反り(しゅもくぞり)」。鐘ではなく、お寺の鐘を突く棒の形から来ています。雑学として覚えておくと一目置かれる豆知識です。
まとめ――次の本場所で”幻の4技”は甦るか?
大相撲の決まり手は全部で82手。そのうち、1955年の制定以来幕内で1度も決まったことがない幻の反り技が4つあります。
- たすき反り――”たすき”をかけるように担いで投げる技
- 外たすき反り――たすき反りを足で強化した超難度
- 撞木反り――鐘を突く棒を支える姿から名付けられた技
- 掛け反り――外掛けに”反り”を融合させた荒業
どれも江戸時代から受け継がれてきた由緒ある技ですが、現代の土俵では立ち合いの高速化/力士の大型化/怪我防止という3つの理由から、姿を消してしまいました。
あなたが次に本場所のテレビ中継を見るとき、もし土俵上で力士が反るような仕草を見せたら、ぜひ注目してみてください。もしかすると、その瞬間「幻の4技」の歴史に新しい1ページが加わるかもしれません。





