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日本初の本格的な30分テレビアニメとして誕生し、今もなお多くの人に愛され続ける手塚治虫(てづか おさむ)の傑作SF漫画・「鉄腕アトム」。そのテレビアニメ第1作の最終回は、放送から半世紀以上が経った今もなお語り継がれる、衝撃的かつ感動的な結末を迎えました。
「鉄腕アトム」は現在に至るまで複数回アニメ化されていますが、中でも多くの人の記憶に深く刻まれているのが、1963年1月1日から1966年12月31日まで放送された、全193話からなるアニメ第1作です。日本での最高視聴率は40.7パーセントを記録し、子供から大人まで広く愛され、日本中を席巻しました。
その最終回のタイトルは「地球最大の冒険」。最終回は1966年の大晦日に放送されました。 当時の子どもたちはどんな気持ちでその結末を見届けたのでしょうか。以下に、その感動の物語を詳しくご紹介します。
目次
日本のアニメ史を変えた「鉄腕アトム」とは
最終回の内容に入る前に、「鉄腕アトム」という作品がいかに偉大であったかを押さえておきましょう。
「鉄腕アトム」は日本初の本格的なテレビアニメとして誕生しました。 「日本のアニメは1話30分で途中にCMを挟み、毎回OPとEDに歌が入る」という基礎を作ったのが、まさにこの作品です。 現在の私たちが当たり前のように楽しんでいるアニメの形式は、アトムによって確立されたと言っても過言ではありません。
アニメ第1作は平均視聴率が30%の大台を超える人気を獲得し、その後、世界各地でも放映されました。また、最終回の脚本・演出には手塚治虫とクレジットされており、手塚治虫が自らシナリオを書いた回だったことも知られています。
太陽の異常爆発で地球に危機が!
「地球最大の冒険」の物語は、ある奇妙な現象から幕を開けます。
ある日突然、世界中の動物たちが北極と南極に向けて大移動を開始しました。草原の動物も、森の動物も、まるで何かに導かれるように、一斉に極地を目指して歩き始めたのです。この異常事態に、世界中の科学者たちが原因究明に動き出しました。
調査の結果、明らかになった衝撃の事実——それは、太陽が異常爆発を起こしているということでした。太陽の活動が急激に活発化したことで地球の気温が上昇し、動物たちは本能的にその熱から逃れようとしていたのです。科学者たちの試算によれば、このまま太陽の異常が続けば、地球上のすべての生物が暮らせなくなってしまうという、まさに人類存亡の危機でした。
全人類、宇宙へ旅立つ
人類は苦渋の決断を下します。太陽の異常が収まるまで、地球を離れ宇宙空間へと避難(ひなん)することにしたのです。
人々は慌ただしく宇宙船への搭乗準備を進め、10万種の動物と10万種の植物を連れて、宇宙という大海原へと旅立ちました。長い歴史を刻んできた故郷・地球を後にする人類の心中は、いかばかりだったでしょうか。
人類が去った後の地球は、ロボットたちに委(まか)ねられることになりました。最初に地球大統領となったのはロボット・ロボンでしたが、何者かに襲撃され、その命を絶たれてしまいます。後継者(こうけいしゃ)の白羽の矢が立ったのは、正義の心を持つロボット少年・アトムでした。こうして、アトムは無人となった地球の守護者として、その責務を担うことになります。
謎の敵・ナポレタン、アトムに牙を剥く
地球の新たな統治者となったアトムの前に、恐るべき敵が立ちはだかります。その名はナポレタン——10年前に改造手術を受け、脳だけは生身の人間、体はサイボーグという存在です。
ナポレタンはロボットが地球を統治することに強い怒りと嫉妬を抱いていました。「地上を治めるべきは、このナポレタンだ」という歪んだ野望に突き動かされ、各地で破壊活動を繰り広げ、アトムを苦しめようとアトムの家族を誘拐(ゆうかい)するなど、卑劣な手段もいとわない人物です。
こうして、アトムとナポレタンの壮絶な戦いの火蓋が切られました。激しい攻防が繰り広げられ、最終的にナポレタンはアトムに敗れます。倒れながらも、ナポレタンはアトムに一つの物を手渡しました。それは、太陽の異常活動を収束(しゅうそく)させることができる特別なカプセルでした。ナポレタンは、そのカプセルをアトムに託すと、自らを罰するかのように濃硫酸(のうりゅうさん)の中へと身を投げ、最後を遂げたのでした。
アトム、カプセルを持って太陽へ飛び込む!

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アトムはカプセルを握りしめ、太陽へと向かいます。これを投下することができれば、太陽の異常は収まり、宇宙へ避難した人類は再び地球へ戻ることができる——アトムは地球を守るために、一人で宇宙の深淵へと飛び立ちました。
しかし、運命は残酷でした。アトムが太陽めがけて投下したカプセルは、飛来した隕石(いんせき)に衝突し、軌道(きどう)が大きくずれてしまったのです。自力でカプセルを正しい軌道へ戻すことはできません。アトムに残された選択肢はただ一つ——自分自身がカプセルを抱えたまま、太陽の中へ飛び込むことでした。
アトムは遠く離れた地球に向かって、家族に最後の別れを告げます。そして、眼下に広がる美しい地球の姿をじっと見つめながら、静かにこうつぶやきました。
「地球はきれいだなあ」
その言葉とともに、アトムはカプセルを胸に抱き、燃え盛る太陽の中へと飛び込んでいったのでした。
衝撃の最終回が残した大きな波紋
当時の視聴率はこの時点でも20%を超え好調でしたが、終了はアメリカのテレビがカラー化に進んでモノクロの本作が売れなくなったことや、スポンサーである明治製菓の意向が理由でした。終了はテレビで予告され、視聴者の母子からは続行を希望する手紙が殺到したといいます。
当時の子供たちから「アトムを殺さないで!!」「アトム死んじゃいや!」という悲痛なハガキや電話がテレビ局や虫プロのもとに殺到した ほどの衝撃でした。この結末は「アトムは太陽の中で溶けて消えてしまったのか」という余韻を残し、長年にわたってファンの間で語り継がれてきました。
「鉄腕アトム」の人気は平均視聴率も27%前後と評判も良かったのですが、スポンサーの意向など大人の事情により最終回となりました。 子どもたちが愛してやまなかったアトムとの別れは、昭和41年(1966年)の大晦日という特別な夜に、日本中のお茶の間を涙で包んだのです。
「地球はきれいだなあ」——アトムが残したその一言は、地球と人類への深い愛情が凝縮された言葉として、今も多くの人の心に刻まれています。
「鉄腕アトム」のテレビ放送
第1作:(鉄腕アトム) 1963年1月1日 -1966年12月31日(全193話)
第2作:(鉄腕アトム) 1980年10月1日 - 1981年12月23日(全52話)
第3作:(ASTRO BOY・鉄腕アトム」) 2003年4月6日 - 2004年3月28日(全50話)