哺乳類のおしっこ、なぜ21秒? 体格と無関係の「排尿の法則」とイグノーベル賞の舞台裏

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黒板に21秒と書く少女

「ゾウもイヌもチンパンジーも――そして私たちヒトも」。体重が3キロ以上ある哺乳類は、排尿に要する時間が「約21秒(±13秒)」と、ほぼ同じなのだという驚きの研究があります。体の大きさが違うはずなのに、なぜ排尿時間だけが揃うのか。米ジョージア工科大学の機械工学研究者パトリシア・ヤン氏らのチームが、その謎を解き明かし、2015年に世界的ユーモア学術賞「イグノーベル賞」の物理学賞を受賞しました。論文第一著者のヤン氏は当時、博士課程の学生だった女性研究者です。哺乳類の「あたりまえ」を覆す、ちょっと笑えるけど真面目な研究の中身をひもといてみましょう。

哺乳類に共通する「21秒の法則」 ――ゾウもイヌもヒトも同じ

「大きい動物は膀胱(ぼうこう)が大きいから、排尿に時間がかかるはず」――そう考えるのは、自然なことです。実際、体重1トン級のゾウの膀胱は、ヒトの約30〜40倍の容量があります。それなのになんと、体重3キロ以上の哺乳類であれば、種類を問わず排尿はほぼ21±13秒で完了するというのです。これは「Law of Urination(排尿の法則)」と名付けられ、論文のタイトルにもなりました。「Duration of Urination Does Not Change With Body Size(排尿に要する時間は体格によって変わらない)」。2013年にプレプリントサーバarxivで発表され、世界中のメディアを驚かせました。arxiv論文

GEO(イグノーベル賞)に輝いた”おしっこ研究”の舞台裏

この研究を率いたのは、米ジョージア工科大学の機械工学者デビッド・フー教授のラボで、中心となって実験を行ったのが博士課程の学生だったパトリシア・ヤン氏です。彼女は後に「体内を流れる流体(尿や血液など)の力学」を専門とする研究者となり、あの「ふしぎな研究」で人々を笑わせながら本質をつきつめるデイビッド・フー教授のもとで研究を重ねました。研究チームは、動物園のゾウや牛、ヤギ、犬、猿など、さまざまな哺乳類を高速度カメラで撮影。高速度撮影で排尿の流れを1コマ1コマ分析し、排尿の流体力学モデルを作り上げたのです。その成果が高く評価され、2015年のイグノーベル賞物理学賞を受賞。授賞式では、夜空に「本物の」物理学者が笑顔で登壇し、受賞のあいさつを行いました。

なぜ体格差が消えるのか? ――「尿流量」を決める3つの力学

ここが研究の面白いところです。膀胱が大きい動物は、尿の量も多い――ということは、尿の排出スピード(尿流量)が大きい動物ほど高くなければ、長い時間がかかってしまいます。ヤン氏らは、尿流量が

  1. 膀胱の容量(体格に比例して大きくなる)
  2. 尿道(にょうどう)の長さ
  3. 重力の影響

の3つで決まることを、数式と実験で示しました。つまり、ゾウのように体が大きく膀胱容量が多い動物は、それに見合うだけの尿流量を自然と生み出せるシステムが体に備わっているのです。結果として、膀胱の中身が空になるまでの時間が「約21秒」に収束するというわけです。「大きいから時間がかかる」という私たちの直感は、流体力学的に裏返された瞬間でした。

ただし、3キロ未満の小動物は当てはまらない

ウグイス「えっ? そうなの?」

ここで気になるのが「約21秒」の例外です。マウスやコウモリ、体重3キロ未満の小動物は、このルールから外れます。その理由はシンプルで、体重が軽すぎると膀胱が小さすぎて尿の量が少なくなり、尿の表面張力(ひょうめんちょうりょく)や粘度(ねんど)の影響が相対的に大きくなるからです。実際にマウスの排尿は1秒以下という報告もあり、大きな哺乳類とは異なる流体力学の世界が働いています。つまり「排尿の法則」は体重3キロ以上の哺乳類に限った、とても気持ちのいい近似だったのです。

日本人の排尿時間も、やっぱり約21秒?

では、私たち日本人の排尿時間はどうなのでしょう? 泌尿器科領域の研究データによれば、日本人成人(男性20〜40代、女性20〜60代)の排尿時間は、平均して約21秒前後。長くても30秒以内におさまるケースがほとんどです。つまり、あの「排尿の法則」は日本人にもしっかり当てはまっていたということになります。朝トイレで「今日はちょっと長引いたな」と感じるとき、もしかしたら膀胱のコンディションや水分摂取量などの個人差によるものかもしれません。

まとめ ――「あたりまえ」に隠された物理学のおもしろさ

「哺乳類はみんな21秒でおしっこを済ませる」。この雑学は、一度聞いたら一生忘れない強烈さがあります。しかもそれが、動物園のゾウから家庭の犬まで、哺乳類ほぼ共通の話だというのは驚きですよね。「体の大きさに関係なく自然界には流体力学のルールがある」という発見は、私たちの体の中にも物理法則が精致に組み込まれていることを教えてくれます。もし次にトイレで時を計ってみたら――21±13秒の「排尿の法則」、あなたも実証してみてはいかがでしょうか?

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